土屋の挑戦 インクルーシブな社会を求めて㉘ / 高浜敏之

土屋ブログ(介護・重度訪問介護・障害福祉サービス)

28 土屋の12のバリュー④ フレキシビリティーについて

第3バリューはフレキシビリティーについて書かれている。

水の流れのように柔軟に、弛むことなく

私たちは出帆以来、組織や個人が「変化できること」の重要性について確認した。

言うは易く行うは難し。この変化する能力、すなわちフレキシビリティーについて考えるとき、常々そう思う。

体も心も頭も、月日を追うごとに固まっていく。可動範囲が次第に狭まっていく。体が動かなくなると、身体の自立性が失われていく。そうすると、動く意欲すら次第に減退していく。果ては廃用症候群などと言われるようになってしまうこともある。心や頭が変化を極端に嫌うようになると、次第に若い人たちから「頑固おやじ」などというレッテルを張られることすらある。

なぜ「頑固おやじ」は誕生するのか?最近の脳科学研究においては、頑固の原因はドーパミン不足という説もあるという。私のような「おやじ」のみならず、若い人たちの中にも時折、「頑迷固陋」を感じることがある。彼らも私たちと同様にドーパミンの分泌が前倒しでやってきてしまったのだろうか。

頑固さの背景には経験や学習によって定着した固定観念がある。この固定観念がやっかいなのは、それが「正しい」と認定されたときには、たしかにその考えは「正しかった」はずである。繰り返される成功体験は、この「正しい」という感覚を日々に強化する。

時代や状況や文化など、広い意味でいう環境が変わって、この「正しさ」が通用しない状況が現れても、私たちは正しいという確信と、この自分の思考の牢獄の外に出ることは容易ではない。私たちの身を守ってきてくれたはずの家屋が、たとえ廃屋になりかけていたとしても、耐震強度がとても危ぶまれる状態になってきたとしても、長年住み続けてきたことによる愛着を手放すことは、容易ではない。

それでもなおかつ私たちはフレキシビリティーを称揚する。それは、思考や行動の遊牧民宣言といってもいいかもしれない。

私たちは、固定観念という囲いの中で農耕民族として安住するより、それが時に危険であったとしても、遊牧民族として移住し続けることを選びたい。なぜならば、このようなPEST環境の流動性が激しい時代において、変わらないとは「死」を意味し、変化することこそが生存戦略の肝のように思えるからだ。

時代に応じて組織が変化し続けるならば、その組織の変化に応じて主体も変化し続けなければならない。

しかし、なんでもかんでも変わればいいというものではない。最も大切なことは、守り続けなければならない。この主張そのものも「頑固おやじ」の兆候なのかもしれないが、心からそう思う。

そう思うとき、治療共同体で毎日のように仲間たちと一緒に読み上げたラインホールド・ニーバーの詩を思い出す。

神様 私にお与えください

変えられないものを受け入れる落ち着きと

変えられるものを変えていく勇気を

そして

二つのものを見分ける賢さを

土屋のフレキシビリティーを称揚する遊牧民宣言は、変えられないものを変えていく勇気を称えていこうという文化の現れである。しかし、すぐには変えることができないこと、また安易に変えてはいけないもの、もある。それらは時には受け入れ、時には守り続けなければならない。

最も大切なのは、この両者を見分ける、賢明さ、だと思う。しかもこの両者の境界線そのものが時代や文化や環境の中で揺れ動く。固定的なものではない。この境界の位置を見定めるためには、思考する私たち自身が動き続けなければならない。止まってはいけない。変化し続ける時代や文化や環境に、寄り添い続けなければならない。

ケアの姿勢が求められる。ケアする人は、ケアされる人の動きや呼吸や鼓動に寄り添い、追いすがり、相手とともに動き続ける。軸を維持しながらも、相手に呼応しながら変化し続けることが、寄り添うことの定義だと思う。軸がないと、相手に振り回されてしまう。だから、軸が弱い人ほど、寄り添うのではなく自分に相手を巻き取ろうとする。だから拒絶される。

ケアとは実に奥行きの深い行為だとつくづく思う。

ケアワーカーのように、マネジメントや経営を担えたら、ケアの姿勢を忘れることなく、フレキシブルに組織運営を担えたら、どんなにいいチームができるだろうか。

アテンダントがクライアントの変化に応じてケアし続けるように、私たちは自らを更新し続け、変わり続け、さらなる社会的価値を再生産し続けたい。

とても大切なことの本質がケア現場に発見される。つくづくそう思う。

 

◆プロフィール
高浜 敏之(たかはま としゆき)
株式会社土屋 代表取締役 兼CEO最高経営責任者

慶応義塾大学文学部哲学科卒 美学美術史学専攻。

大学卒業後、介護福祉社会運動の世界へ。自立障害者の介助者、障害者運動、ホームレス支援活動を経て、介護系ベンチャー企業の立ち上げに参加。デイサービスの管理者、事業統括、新規事業の企画立案、エリア開発などを経験。

2020年8月に株式会社土屋を起業。代表取締役CEOに就任。趣味はボクシング、文学、アート、海辺を散策。

 

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