土屋ブログ(介護・重度訪問介護・障害福祉サービス)
NGOやNPOと違って、営利法人としてソーシャル・ビジネスを展開していく際、持続的・安定的に事業を運営するために「社会性」と「事業性」とのバランス(S/Bバランス)が重要です。言い換えれば、社会課題の解決への取り組みと、それをさらに推し進めて範囲を広めていくため、ならびにステーク・ホルダーへの利益分配のため、必要かつ十分な収益を確保する取り組みとの両方を同時にしていかなければなりません。
そもそもソーシャル・ビジネス(SB)は営利事業の一形態です。そしてSBに限らず、重きを置くポイントは違えど、いかなる事業も、先ずは理念が設定され、それに基づいて稼働し始めます。
その後、事業体(企業)は、理念やニーズ、市況、政治情勢、社会状況の変化など複合的諸要素に影響されながら成長していきます。その成長過程において、これら複合的諸要素は変化し、またそれら各要素の作用バランスも変化し続けますので、営利事業には成長期・停滞期・後退期が繰り返し到来します。
そして、先記諸要素の作用バランスが大きく崩れるとその事業体はついに存在意義を失ってしまうのです。その際、SB企業も例外ではありません。SB企業はそのような場合、存在をやめるか、もしくはSBから別種のものに変容しなければならなくなります。
ところで、SBにおいて、それら複合的諸要素の作用に応じて事業運営する際に重要視されるべきパラメータは、大まかに言えば、社会性ミッションと事業性ミッションの2つです。
社会性ミッションとは、企業が自ら選択した社会的課題を解決するために設定するミッション(使命)を指し、一方、事業性ミッションとは、企業が適正な収益を獲得し、それにより組織自身の独立、維持及び適正な成長を担保し、かつその組織に関わるすべてのステーク・ホルダーに益を分配する事、さらには他の社会的課題への取り組みに乗り出す事を可能にするための営利的使命を意味します。
思いっきり平たく言えば、前者が「人助け」で、後者が「金儲け」です。
SBとは、その双方(デュアル・ミッション)を、バランスを絶妙に取りながら追求するビジネスなのです。そのバランスは、常に最大限の注意深さで監視することを必要とし、さらに、調整精度についても良心に基づいた繊細さを要します。
留意点は、一つには、社会性ミッションの方に余剰に重心を移してしまうと、SBは慈善活動に陥り、事業範囲を広げたり、ES向上が出来なくなってしまうこと。そしてもうひとつには、事業性ミッションの方にあまりにも大きく傾くと、今度は「金儲け」という、本来SBにとっては使命を遂行するための手段が事業活動の目的化してしまい、元も子もなくなってしまうということです。
デュアル・ミッションは事業戦略によって実行されますが、事業戦略はそもそもの社会的ニーズを充足するという本業務のほかに、ブランディング、マーケティング、商品・サービスの販促営業、新規事業開発、HR、財務などの諸施策によって構成されます。事業遂行においては、このふたつのミッションはしばしば並列的に取り扱われたり、一方がより重視されたりを繰り返します。これら2つのミッションに序列をつけることはできないものの、このデュアル・ミッション性がジレンマとして経営面に困難をもたらす場合もありえるのです。だからこそ、上述した「絶妙なバランス感覚」が必要なのです。
ともあれ、「(1)事業が成功するほど社会の役に立つ。(2)社会の役に立つほど事業が発展する。」、この2点が、SBの最も素晴らしい点だと私は思っています。SBは、もともと人々が社会と生活の幸福の循環のために行っていた「なりわい」のルネッサンス的発想です。だからこそ今、株式会社土屋・「ホームケア土屋」の社員・スタッフにとって、上記の考え方が必須だとも考えます。
◆プロフィール
古本 聡(こもと さとし)
1957年生まれ
脳性麻痺による四肢障害。車いすユーザー。 旧ソ連で約10年間生活。内幼少期5年間を現地の障害児収容施設で過ごす。
早稲田大学商学部卒。
18~24歳の間、障害者運動に加わり、障害者自立生活のサポート役としてボランティア、 介助者の勧誘・コーディネートを行う。大学卒業後、翻訳会社を設立、2019年まで運営。
2016年より介護従事者向け講座、学習会・研修会等の講師、コラム執筆を主に担当。