地域で生きる/22年目の地域生活奮闘記78~介護人材不足を考えるシンポジウムに参加して思うこと~渡邉由美子

先日、以前活動していたNPO団体の介護者の方からのお誘いで有志で集まって、介護問題シンポジウムが開催されました。
介護難民問題を解決するため、ケアの質、介護者の労働環境の改善、賃金の適切なアップなどを考えるシンポジウムでした。

その組織自体が有志の集まりであり、会費などの資金は全く無い状況で手弁当のボランティアで行うものであったため、会場は公共の建物で無料の場所を押さえ、そこから配信する形でコロナ禍も配慮したハイブリッドタイプのシンポジウムでした。

内容は高齢者介護を長年やってきて、特に介護労働者の労働環境の改善ということに口だけではなく行動をしっかり起こしている方が体験から滲み出るリアルな話をして下さり、2000年の介護保険制度が始まる前からの地域で生きたい人をしっかりサポートすることを実践的にやってきた人のお話で、とても興味深いものでした。

しかし、主催者側そのものに資金力が全く無いために、そして参加者からも会費は取らないスタイルを貫き通したいあまり、多分海外の同時双方向の配信ツールを使用し行われました。

とにかく通信環境が悪く、ネット環境は繋がっているにも関わらず音声がプツプツと切れてしまったり、ゆっくりの話し方になってしまったり、画像の共有がきちんとなされなかったりしました。

主催者側は試行錯誤するものの、とうとう最後まで安定的な配信を受けることができぬまま終了せざるをえない状況となりました。とても良い内容なのに勿体ないと思ってしまいました。

かけるべきところにかけられる金銭を寄付や会費という形を取らなければ得られない状況の中で、物事を行なっていくことがいかに難しいか、運営者側もかつて経験したことがあるだけにさぞかし大変であったと思います。

あまりにも通信環境が悪いので、途中で何度か諦めて退出してしまおうかと考える瞬間がありました。それでも主催者の人が一生懸命やっていることを考えると早々に抜けることはできませんでした。

このような状況が物語っているように介護問題は内々づくしの中で、善意という人の心でささえられている部分がまだまだ大きく、そのシンポジウムの中で聞こえてきた大半の意見も利用者をもっと人として人間らしく生きられるように支えたい。でもそれを状況が許さないのです。

制度的な裏付けを確保できないために、本人の意思をしっかりと確認したり表情を見たりする余裕もなく、はい着替えさせて。はいご飯を食べさせて。時間になったらそそくさと次の現場に自転車を飛ばし、次のケアを求める利用者のニーズをこれまた6割程叶える、そんな生活が続いている。

そうすると、やりがいも失われ、最初に抱いたこの利用者にはこうしたい、こうあるべきだ。という熱い思いが忙しさと疲労に変わり、やがてこなす介護になってしまうということなのです。

これは高齢者介護のよくある事例ですが、障害者の特に重度訪問介護は、今は、長時間滞在型のサービスとして存在していますが、国は財政難や人材不足を理由に、介護保険統合を画策していることを考えると不安になります。

障がい者も、いつこなす介護に移行されてしまうかわからない状況です。そして介護という仕事が相変わらず他の職業と比べて低賃金であることを背景に、人手不足なのは高齢も障害も共通の長年の課題なのです。

介護保険でこなす介護に慣れている人は人間関係を作らなくてもやることだけやって帰れるから良いというようなことを言われるのです。しかし、それは利用者側にたくさんの我慢を強いて成り立っていることなので決して良いわけではないし、本心から言えば、こなす介護をしたい人はいないと思います。

そんな状況の中で市民レベルの動きとして、ただ嘆いているだけではなく何ができるかという建設的な意見もたくさん出ていました。最後には、支え合うことを続けていけるように当事者・支援者それぞれの立場の人たちが自由にケアのことについて語り合い、明日からの英気を養って活動し続けること、言うべきことは的確に国や地方自治体に介護者の立場からも伝え続けていくことが有用であるということを再確認しました。

そして、障がい者の介護制度の根本はやはり当事者運動であるべきだということも再確認し、障がい者運動の闘志を新たにしました。

共生社会というのを言葉だけではなく、泥臭い人間関係の渦の中で肩が触れ合う距離間で語り合い、支え合い訴え続けていくことで介護のパッションを途絶えさせてはいけない。生命維持の最期の砦である職業に誇りを持って行なっていこうという結論に至りました。

本当にその通りだと思いますが、介護者もその労働から賃金を得て普通に他の職業と同等の生活ができる保障制度を求めて闘い続けていきたいと改めて思いました。

とにかく利用者にとっては自分の城である在宅で暮らし続け、そんなに特別なことがあるわけではなくても、好きな時間に好きなものを食べ、淡々と生きられる暮らしは高齢者であれ障がい者であれ、その状況が重度でも、かけがえのないものであることは否めない事実なのです。

双方が支えたい、支えられたいと思う気持ちを国や自治体にはきちんと財政的に担保していただきたいと切に願うばかりです。茨の道ではあっても、手を携えてやり続けていこうと決意しました。

 

◆プロフィール
渡邉 由美子(わたなべ ゆみこ)
1968年出生

養護学校を卒業後、地域の作業所で働く。その後、2000年より東京に移住し一人暮らしを開始。重度の障害を持つ仲間の一人暮らし支援を勢力的に行う。

◎主な社会参加活動
・公的介護保障要求運動
・重度訪問介護を担う介護者の養成活動
・次世代を担う若者たちにボランティアを通じて障がい者の存在を知らしめる活動

 

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