「人」を支えるのに知識は必要? / 高浜将之

土屋ブログ(介護・重度訪問介護・障害福祉サービス)

Aさんという前頭側頭型認知症と診断されている方の支援で非常に悩んだことがありました。前頭側頭型認知症にしては珍しく、活動に意欲的で表情豊か、職員や一部の他入居者と顔なじみになり、積極的にコミュニケーションを取る等、活発に過ごされる一方で、他者への暴言・暴力が著しかったからです。

喜怒がはっきりしており、上機嫌なときは周囲ともコミュニケーションを取る一方、不機嫌になると暴言・暴力行為等が見られ、他の入居者の生活に影響が出ていました。

ある時、Aさんは一か月程入院しました。戻ってきたAさんは、何年も住んでいる場所にも関わらず、どこか慣れない場所のように、ヨソヨソしく遠慮がちに生活をしていたのですが、その間全くと言って良い程暴言・暴力は見られず、落ち着いて過ごされていました。

退院後、一か月程して徐々に慣れてきたAさんですが、慣れるに伴い暴言・暴力が出現してきました。そんな時、兄が持っていた「人格障害」のことが書かれている書籍を眺めていると、以下のことが印象に残りました。

自分とは少し距離のある他人に対しては、我慢強く接することができます。ときには過剰なまでの気遣いを見せる場合もあります。
自分と関係が密接な人に対しては、遠慮なく怒りをぶつけ激しく攻撃します。傷つけてしまったことへの後悔や反省はあまり見られません。

Aさんにも当てはまると思い、人格障害の人に対しての接し方を調べ、ケアの参考にした所、Aさんの症状が劇的に改善し、他の方との共同生活が可能な状態に戻ることができました。

私は、精神保健分野の専門家でもないですし、Aさんは人格障害の診断を受けているわけでもありません。ただし、被介護者が他の様々な精神面の問題を抱えている可能性も否定できないのです。

高齢者も障害を抱えている方も、多くの被介護者は不安を抱えています。不安が募ることによって精神的に不安定になり、様々な症状が出てしまうこともあるのではないでしょうか?

対人支援は、病気や障害を支援するのではなく、あくまでその「人」を支援する仕事です。支援する方が、認知症状態の方もいれば、精神障害の方もおり、人格障害のケースもあると思います。

「人」を支援するのに知識は重要じゃないという考え方もありますが、私はAさんの支援を通じて、その人が置かれている状況・状態を理解し、その「人」を理解・尊重するためにも様々な知識を身に付けた方が良いと考えています。

専門職というと、頭でっかちで知識偏重のようなイメージがありますが、介護の専門職とは、知識を活用しながら「人」を支援できることだと思います。

 

◆プロフィール
高浜 将之(たかはま まさゆき)

大学卒業後、営業の仕事をしていたが、2001年9月11日の同時多発テロを期に退職。1年間のフリーター生活の後、社会的マイノリティーの方々の支援をしたいと考え、2002年より介護業界へ足を踏み入れる。大型施設で2年間勤めた後、認知症グループホームに転職。以後、認知症ケアの世界にどっぷり浸かっている。グループホームでは一般職員からホーム長、複数の事業所の統括責任者等を経験。また、認知症介護指導者として東京都の認知症研修等の講師や地域での認知症への啓発活動等も積極的に取り組んでいる。現職は有限会社のがわ代表取締役兼医療法人社団つくし会統括責任者。

 

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