社員の実践理解の促進 ~10. CSR、SDGsの実践は社員の認識度がかなめ~ / 影山摩子弥

土屋ブログ(介護・重度訪問介護・障害福祉サービス)

CSRの計画が決まったら、実行に移すことになる。CSRの実践にとって、社員がかなめとなる。業務の現場でCSRを実践する要員であるからである。経営者がいかに良いことを言っていたとしても、それが業務の中で実践できていなければ絵に描いた餅である。顧客や社員など重要なステークホルダーの失望も呼ぶであろう。

社員の日々の業務が効果的なCSRとなるためには、自分が業務の中で何をすればよいかを理解し、それを実践するモチベーションを持っていることが必要である。

CSRの一環としてのSDGsも同様である。的確な実践が組織全体でできなければ、いかに良い事業プランでもSDGsへの貢献と自社にとっての意味に結びつかない。つまり、SDGsはCSRと同様、社員の巻き込みをいかに行うか(engagement)、もしくは、SDGsを組織にいかに浸透させるかが重要なのである。

ただ、構える必要はない。CSRもSDGsも経営戦略であり、自社にとって必要な事業である。社員は、会社にとって必要な業務を遂行するだけなのである。つまり、CSR/SDGs のための社員の育成とは、「使える社員を作る」というのに等しい。このように考えれば、各社がやってきたことをCSR/SDGsを視野に実行すればよい。ただ、社会性戦略の場合、通常の業務とは異なる部分もある。

社員を社会性戦略の実践部隊として育成するには、様々な手法がある。まず、社内でワークショップを行う方法がある。SDGsの意義を実感し、自分に何ができるかを考え、実践できる社員を育成するために、SDGs整理表やSDGs事業創造表、CSR析出表を社員のグループワークで作成するのである。そうすると、SDGsについての理解が格段に高まる。
また、事業評価も社員のグループワークで行う。評価とその方法を社内で共有すれば、組織全体で事業評価に習熟してくる。

しかも、それらの作業を通して自社が国際的課題に貢献していること、自分の仕事が世界に貢献できていることが実感できるので、会社に対する求心力が上がり、仕事に対するモチベーションも高まる可能性がある。そのような事例を多く見ることができる。

また、自分の業務について、何をすることがCSR/SDGsの実践になるのかを考えさせ、それに基づいて行動できるようにする研修も必要である。座学である必要はない。中小企業の場合、社長と昼食をとりながら雑談の中で社員を導く方法もある。その際、特に重要であるのが経営理念の体系の浸透である。

社員の業務は様々である。しかも、日々の業務では、様々なことがあり、CSR/SDGsの実践と言っても、研修の際に考えたことでは、判断がつかないケースがありうる。そこで社員にとって様々な場面で判断基準となる経営理念の体系を落とし込むのである。それが、社員を支え、重要な場面で行動を方向付けることになる。

経営理念の体系とは、企業が負うミッション(社会的使命)、ミッションを達成し生き残るために目指す企業像であるビジョン、ビジョンを目指す際の価値判断基準となる経営理念や経営方針、行動規範をはじめとした各種規範・規程など、精神性に関わる文言の類である。

ミッションは、ステークホルダーの期待を集約したものであり、社会の側から見た企業の存在目的、ビジョンは企業が目指したいと思う姿であり、企業の側から見た存在目的を反映したものと言える。

経営理念は、日々の業務において沿うべき価値判断基準である。それらが整合することによって、効果的なCSR/SDGsとなり、経営的なメリットも享受できる。なお、最近purposeという用語を耳にするが、ミッションやビジョンが含んでいたものを言い換えただけとも言える。「~はもうだめ、これからは~だ」に踊らされ、新たに作る必要はない。社内が混乱するだけである。

 

◆プロフィール
影山 摩子弥(かげやま まこや)

研究・教育の傍ら、海外や日本国内の行政機関、企業、NPOなどからの相談に対応している。また、CSRの認定制度である「横浜型地域貢献企業認定制度(横浜市)」や「宇都宮まちづくり貢献企業認証制度(宇都宮市)」、「全日本印刷工業組合連合会CSR認定制度」の設計を担い、地域および中小企業の活性化のための支援を行っている。

◎履歴
1959年に静岡県浜北市(現 浜松市)に生まれる。

1983年 早稲田大学商学部卒。

1989年横浜市立大学商学部専任講師、2001年同教授、2019年同大学国際教養学部教授。

2006年 横浜市立大学CSRセンターLLP(現 CSR&サステナビリティセンター合同会社)センター長(現在に至る)

2012年 全日本印刷工業組合特別顧問 兼 CSR推進専門委員会特別委員(現在に至る)

2014年 一般社団法人日本ES開発協会顧問(現在に至る)

2019年 一般財団法人CSOネットワーク(現在に至る)

◎専門:経済原論、経済システム論

◎現在の研究テーマ:地域CSR論、障がい者雇用

◎著書:
・『なぜ障がい者を雇う中小企業は業績を上げ続けるのか?』(中央法規出版)
・世界経済と人間生活の経済学』(敬文堂)

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