地域で生きる/21年目の地域生活奮闘記⑱~支援に来ていた大学生の卒論に協力して思うこと~ / 渡邉由美子

土屋ブログ(介護・重度訪問介護・障害福祉サービス)

春は別れと出会いが混在する季節ですが、今年もそんな時期が来て、とある学生さんが自立生活の事をテーマに卒業論文を書きたいというので微力ながら協力をしました。

たくさんの文献を読み込まれていました。その上で学生さん独自の考察を交えて身体障害者の制度が出来ていく成り立ちをかなり昔の時代まで遡り、分析をして卒論に書きまとめていく構成の中で、現代における実体験的な部分をモニタリングする箇所を数名の一人暮らしをしている仲間の重度障害者と共に尽力させていただきました。

普段毎日の生活で精いっぱいな中、歴史を振り返ることはとても少なくなってしまうので、その意味では私自身も改めて自分が生活を成り立たせている制度を正しく把握する良いきっかけとなりました。改めて、私たち重度障害者が生きてきたいばらの道のりは険しいものであるとしみじみ感じました。

何の法律的な保証も無く、生きていることさえも否定されながらそれでも踏まれても踏まれても立ち上がり、世論に必要性を訴え続けてきました。

支援者の理解と、歎願運動や実力行使をする事によって自らの力で生き抜いてきた障害者運動の軌跡は誰に作ってもらったものでもなく、生きるために必要であった人々が勝ち取ってきたものに他ならないことが改めて明確となりました。

劣悪な環境での収容型施設での生活で、障害を克服するための医療モデルとしての役割を果たすことを使命と強制され、男女の区別も人権もそこには存在しない状況の中で、耐え忍ぶ生活を余儀なくされたことへの障がい当事者の強い怒りによる人権回復と、人として生きることの意味を世に問う活動の一端を垣間見る地域生活確立を目指す命がけの闘いを繰り広げた結果が、不十分でありながら、今、実を結んでいるのです。

そして在宅に置かれた重度障がい者もいわゆる座敷牢に隠されていました。またお金を稼ぐ手段として見世物になっていた時もありました。このような、普通の人と同じように生きられる環境を当事者自らの手で勝ち取っていく時代の話を背景に、それを裏付けする法律がどのように変化し、作り上げられてきたかを記し、そこに卒論を書いている、私の介護にも関わっている学生さんの見解や推論を書き加えていきながら、私たち今を生きる一人暮らし重度障がい者にインタビューして、それも文章ではなく、表にまとめ分かりやすくそれぞれの意見を比較しながら現状の問題点を明らかにしていく事に力を入れた論文のまとめ方となっていました。

今年は、特にコロナ禍という新たな困難の中で生きていることに着目した質問もあり、ただでさえ普段から困難を極める生活の中でより強く生き抜こうとする障がい当事者の底力を生の声からリアルに吸い上げ、今年ならではの生きづらさを書き綴っていました。

同じ状況下でも乗り越え方は人それぞれであり、自立生活の在り様も当然ながら十人十色である事が浮き彫りになりました。重度訪問介護で介護者をつけて就労することができないことも、今の時代の働き方の多様性から見て改善すべき緊急の課題であることを再認識させていただきました。

長時間にわたる一問一答のインタビューを録音して聞き取ったものを、あのように簡潔に比較・対照をしながらまとめる論文を仕上げる技術は、こうして自分の思いを執筆する活動に生かしたいと、私自身とても学ぶことの多い卒業論文の協力となりました。

重度障がい者に関わったことのない同じ大学生で、卒論発表会などを通じて初めてこのような暮らしがあることを知ってくださった学生さんたちにも新たな価値観の提示となったり、固定観念を切り崩すきっかけになったりしたのではないかと思います。

機会を見つけ、様々な人たちに人間の生きる道の多様性を知ってもらいたいと思って日々活動していますが、このようなことを卒業論文のテーマにして下さった学生さんを通じて、また一つ知ってもらえるチャンスを得られたことはとてもありがたいことであったと感謝しています。

この学生さんはこの卒業論文を書くためにだけ私に関わったわけではなく、もともと介護をして私の生活を支えることをしてくれている中でこのテーマを選んでくださったので、現場の現実も踏まえ、綺麗事ではない部分も加筆しながら書いたものなので、とても中身の濃いものに仕上げて下さったと思います。

就職をしても、このような福祉行政に携わることの出来る可能性のある分野にいて下さるので世の中捨てたものではなく、少しは良い方向に進んでいく期待が持てます。行政は個人で動いている訳ではなく組織で動いているので難しい部分も多いと思いますが、それでも現場経験があるか?ないか?は大きな違いだと思います。

こうして古い体質の卓上で決める福祉ではなく、本当に生活者が生活しやすい制度が作られ、運用されていく世の中の流れになって欲しいと望むばかりです。若い力で世の中を変えて欲しいと願っています。

卒業論文はとてもまとめにくいものですが、よくぞ分かりやすく伝えて下さり、この場を借りて感謝いたします。

 

◆プロフィール
渡邉 由美子(わたなべ ゆみこ)
1968年出生

養護学校を卒業後、地域の作業所で働く。その後、2000年より東京に移住し一人暮らしを開始。重度の障害を持つ仲間の一人暮らし支援を勢力的に行う。

◎主な社会参加活動
・公的介護保障要求運動
・重度訪問介護を担う介護者の養成活動
・次世代を担う若者たちにボランティアを通じて障がい者の存在を知らしめる活動

 

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