地域で生きる/22年目の地域生活奮闘記91~幸福感を感じられる生活について~ / 渡邉由美子

今この原稿を書いている時は、某テレビ局で長年続いている24時間テレビが放送され始めている状況の中で、それをなんとなくBGMにしながらこの文章を書いています。

偽善とかお涙頂戴みたいな感じがして私はあまり好きな番組ではありません。でも、なんとなく断片的に見てしまうのは、この番組が始まった当初は寝たきりの高齢者や障がい者が取り扱われ方はともかくとして、メディアに登場することなど到底考えられなかった時代でした。

そして世の中に何年もお風呂に入ることが出来ない人間がいることや、障がいを持っている人たちも健常者と同じこの世の中で生活をしたいと望んでいても、その時代は家族などが限界を迎えると同じ世の中ではなく、障がい者ばかりを集めた収容型の生活を措置という名のもとに強制されることを知らしめました。

そんなことを広く一般の人の目に触れる形で大宣伝したあの時代の一定の効果はあったように私は思います。それがあったからこそ行政サービスのメニューの中に寝たきりでも人の手を借りてお風呂に入れる訪問入浴という制度が出来た一つのきっかけなのではないかと私は推論しています。

それは始まったばかりの頃の話で、今はもうそんなインパクトも無い中で、訪問入浴サービスに限らず様々な福祉サービスの必要性を感じることが難しいと思います。

さて、話題は変わりますが、自立生活22年目にして介護体制的に安定し、今が一番幸福なのではないかと思える状況になってきました。昨年の12月に介護枠の多かった方が急逝されて以来、ずっと介護体制が安定せず、一時は自立生活も終了しなければならないのではないかと真剣に考えながら生活をしていた今年の初めの頃を考えると、見違えるような介護ローテーションの安定を見ることがおかげさまで出来ています。

一人の介護者に依存気味に生活をしていたことにより、最悪の状況を産んでしまったことを経験して介護者に対する思いや考え方がとても深まったような気がします。それは一言で言うと本当に日々来て下さるだけでありがたいと心から思うようになり、一人一人の私の人生を支えてくれる介護者と改めて向き合い、大切にその人との時間を一日一日過ごし、その積み重ねが年月と共に人生を作っていくことなのだと思えるようになってきました。

私は自分の自立生活はこうでなければならないという理想があり、それを70%くらいは叶えてくれる力量と能力をもった介護者でなければ、私の介護者にはなれないと考えて今まで暮らしてきたような気がします。

そんな自分の思いを強く持てば持つほどそんな人はいるはずもなく、今日まで生きてきた境遇も生き様も生活習慣も違う人間同士が、介護支援という求める側と求めに応じる側という構図の中で共に長い時間を過ごし、一人の重度障がい者である私の人生の営みが3年、5年、10年という単位で暮れていきます。

そんなに変わったことも日常的にはあるわけでもないし、当然のことながら楽しい事よりも大変なことの方が多いのは重度障がいがあっても無くても同じなのだと、悟りの境地のように最近思えるようになってきました。

自分のやりたいことが40%くらいしか可能にはならなかったとしても、その介護者が私の事を支えたいと思い続けてくれること、そして適材適職で縫物が得意とか、料理が得意とか、何だかこの人が介護者としていてくれたら安心とか、事務仕事が得意で私の世の中に発したい発言権の行使を助けて下さるとか、様々なことが共鳴し合って私の自立生活において、必要な要素が一つ一つ確実に可能になっていることを感じています。

このように思えるようになれたことは、幸福なことだと思えてなりません。人の幸せは形や色で表せるものではないだけに表現はとても難しいですが、総じて振り返った時に若い頃何もできないし、私などダメのダメのダメ人間だと思っていた頃からすれば「チーム渡邉」が形作られてきているように感じています。

健康を害する事さえなければ、この上何を高望みするかと思うくらい成熟期に達しかけている地域生活を実感することが出来ています。

人の良い部分をこれからも見続けて、様々な困難はあってもやっぱり地域で生きることは幸福感の強い暮らしなのだということを、日々再認識しながら精一杯自分にできる障がい者運動や社会参加活動を行う中で、お互いの無くてはならない存在意義を認め合って暮らす人を大事にする自立生活を継続していきたいと考えています。

完璧な人間などいないのは、当然のことです。自分は今まで能力主義を否定し、できなくても認められる社会を作りたいと声高に語り、行政に基本的人権や幸福追求権の行使に違反しない行政サービスを提供する責務について訴え続けてきました。

しかし自分はどうなのかと考えた時に、それだけ他者に求めるのであれば、私自身もそれなりにしっかりした理念と一本筋を通す生き方をしていかなければいけないと考え直すようになりました。

今までの繰り返してしまった介護者との関係の負の部分にピリオドを打ち、これからはできることを可能な限りやってもらい、細く長く楽しく生きていく介護者との関係を再構築していきたいと考えています。

 

◆プロフィール
渡邉 由美子(わたなべ ゆみこ)
1968年出生

養護学校を卒業後、地域の作業所で働く。その後、2000年より東京に移住し一人暮らしを開始。重度の障害を持つ仲間の一人暮らし支援を勢力的に行う。

◎主な社会参加活動
・公的介護保障要求運動
・重度訪問介護を担う介護者の養成活動
・次世代を担う若者たちにボランティアを通じて障がい者の存在を知らしめる活動

 

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