地域で生きる/22年目の地域生活奮闘記103~新たな生命の誕生に思うこと~ / 渡邉由美子

私事で恐縮ですが、先日姪っ子が出産しました。まずは無事に生まれてきてくれて本当に良かったと思います。まだ面会は叶っていませんが、姪から動画が送られてくるたびに、まだ会ったこともないその子がまるですぐそばにいるかのように感じられます。

また自分たちが生まれたころのことや姉が姪っ子を産んだ時のことまでがついこの間のようによみがえってきます。

文明の力によって、会いに行けずとも実際に会っているかのように感じられる幸福感を抱きつつ、IT社会の進歩にすっかり後れをとっているのもまた事実です。がんばってついていきたいと改めて思います。

私自身は出産経験がないため、姉の時も姪の時も生命がお腹の中に宿り、十月十日の月日を経てこの世に生まれてくるということに、何とも言えない思いを巡らしたものです。自分自身が出産時のトラブルが原因で重い障がいをもって生まれたこともあり、妊娠・出産という本来喜ばしい出来事を前に、起きうるリスクへの心配がつい先行してしまいます。

とはいえ「もしかしたら生まれて間もないあの時、意識もない状態のまま、私の人生は終わっていたかもしれない」と考えると、日々出会う楽しいことも、たくさんの苦難の経験から得た人生の醍醐味も、おいしいものをおいしいと思って味わうことも、どれも奇跡のように感じます。

そんな風に自身の半生を振り返る時、昔あるタレントさんが言った「生きてるだけで丸儲け」という言葉が浮かび、本当にそのとおりだなとつくづく感じます。

私はこの歳になるまで自身の信念を貫き通す人生を選択し、歩み続けてきました。重い障がいをもって生きるよう運命づけられたこの人生を恨むこともなければ、「これはこれで他の人には絶対に味わえない特別な人生なのだろう。今後もなにが起こるか、ワクワク・ドキドキしながら一日一日を積み重ねていこう」とすら思っています。

両親が80代となった今、曲がりなりにも自立生活を確立できていることも、私にとって大きな財産となっています。

介護業界の慢性的な人材不足はなかなか解決できません。また少しずつ世の中に浸透してきているとはいえ、「重度訪問介護ってなに?」とか、「そんなに長時間寝たきりの人の生活に入り込んで、いったいなにをするの?」といった疑問の声はまだまだ根強く残っています。

そういった疑問を減らし、重度の障がいとともに生きる人たちの生活に入り込んで行う介護の意義をもっともっと世の中に広めていくために、後半戦にさしかかった自分の人生をかけて活動していこうと強く思います。

もしかしたら私の人生は生まれてすぐにないものになっていたかもしれない。せっかく拾えた人生だからこそ、力尽きるまで信念をもって生き抜いていこうと思っています。

今でこそ重度の障がいがあっても、人生を前向きに生きることができていますが、そこに至るまでには”紆余曲折“という言葉では語りつくせないほどの年月と闘いの日々がありました。

もちろんすべてが過去形ではなく、その闘いの日々は現在進行形で続いています。過去も現在も毎日を闘い抜くことで人生が成り立っているのだと感じます。

ここ最近の一番の闘いの相手は自分自身の体力と気力です。加齢とともに、誰しも体力や気力は低下します。それを認めつつも、まだまだやりたいこと、やらなければいけないことが私にはたくさんあるとも考えます。

無理をし過ぎては本末転倒ですが、どこまでならやれるのか、やるべきなのか。それとも休むべきなのかといったことと日々葛藤しています。

今までは、対行政であったり、対事業所であったり、自身が闘う相手は他人というケースがほとんどでした。自分の現実は棚に上げて目の前の相手と必死に闘って、そうしながら一定の成果を勝ち取ってきたという自負があります。

ところが今の闘いの相手は自分自身です。否が応でも自己を見つめ直す作業とセットでなければ闘えないため、とても苦しいものとなっています。

年齢を重ねるたびに、自身と向き合う闘いの濃度は増すでしょう。そのうち考える余裕すらなくなり、介護者に起こしてもらうことはおろか、介護者の力を借りて生活すること自体がしんどいと感じる時が来るのだろう。

そんな風に覚悟はしてみるものの、どこかで「自分はまだまだいけるはずだ」という過信があり、現実をみつめ、足元を固めて生活をし続けていくことがとてもむずかしいのが現状です。

思い返せば1030gの極小未熟児としてこの世に生まれた瞬間、私は息すらしておらず、救命と蘇生によって人生をスタートさせることができました。そんな始まりから、ここまでたくましく生きてこられたのだから「その時々で出来る限りのことをやってきた」と、もう少し満足してもいいのかなとも考えます。

とはいえ人間というものはどこまでも欲深いもので、現状に満足することがなかなかできずにいます。

姪のこどもの成長を楽しみにしながら、私自身も負けじとこの世の中の厳しさに抗いつつ、生きていきたいと思います。身近なことでいえば、介護者と良好な人間関係を築いていくために、年を重ねた今、小さなことにイライラしたり、こうでなければならないと決めつけたりしがちな自分の悪い所を正したいと思っています。

これからを担う若い重度障がい者の皆さん、人生を楽しくできるも暗く落ち込むも、自分の行動や発信する内容ひとつです。ポジティブに捉えて共に明るい未来を作っていきましょう。

 

◆プロフィール
渡邉 由美子(わたなべ ゆみこ)
1968年出生

養護学校を卒業後、地域の作業所で働く。その後、2000年より東京に移住し一人暮らしを開始。重度の障害を持つ仲間の一人暮らし支援を勢力的に行う。

◎主な社会参加活動
・公的介護保障要求運動
・重度訪問介護を担う介護者の養成活動
・次世代を担う若者たちにボランティアを通じて障がい者の存在を知らしめる活動

 

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